生体分子・細胞計測技術の俯瞰的な解析から 次のビジネスチャンスを探る

2017年6月21日

はじめに

ジョンズ・ホプキンス大学シドニーキンメルがんセンターのCristian TomasettiとBert Vogelsteinらによって、2017年3月23日にScience誌に発表された論文が大きな話題を呼んでいる。その内容は、がんを引き起こす変異の実のうち3分の2近くの細胞がDNAをコピーする際に起きたエラーが原因であることが、数学モデルから示唆されたというものだ。この研究のNature誌の解説(23 March 2017オンライン版記事, Heidi Ledford)によると、32種類のがんについての計算の結果、がんのドライバー変異のうち、66%がDNA複製の際のランダムなエラーによるもので、環境要因による変異は29%に過ぎず、遺伝性の変異に至っては、5%のみであるという。Vogelstein氏はNature誌の取材に対し、「(DNA複製のランダムなエラーという偶発性の要因、つまり防ぐことが難しい要因の割合が、対処可能な要因である環境要因の割合の2倍強にのぼることから)予防に加え、早期発見や治療が、がんと戦う上での重要なポイントになる」という趣旨の説明をしている。
早期発見は、がんの進行を抑制し、効果的な治療を行う上で不可欠なものである。そして、医療費抑制の観点でも、早期発見に対する社会的な要望は高い。例えば、線虫による尿検体を使ったがん検査に関する九州大学の研究成果が大きなニュースとなったことは記憶に新しい。がんに限らず、様々な疾患の早期診断に役立つ高感度で簡便、かつ安価な検査・分析システムは、大きな市場を形成しうるため、ビジネスチャンスとなるに違いない。
そこで、本レポートでは、こうした早期診断に寄与する生体分子・細胞の測定技術に焦点を当て、現在、主にどのような技術分野が存在するのか改めて整理するとともに、最近注目されている新しい技術・アプリケーションと開発企業について簡単に紹介する。

概要

1993年以降に公開された日本国公開特許公報を技術分野調査のための調査資料とした。このうち、生物学的材料の調査、分析(2G045)、とサンプリング、試料調製(2G052)に関わる内容の公開公報(75,719件)を分析対象とし、VALUENEXのTechRadarで解析した。

<技術分野>
特許の内容は、測定デバイスに関連するものとバイオマーカーおよび測定法に関するものとで、大きく2つに分類された(図1)。測定デバイスは、バイオチップやアレイの基板、磁性粒子・ナノ粒子、電極・センサー、細胞画像撮影デバイス、流路・マイクロチップ、リキッドハンドリング等に関係するものから構成されていた。一方、バイオマーカー・測定法は、遺伝子発現・蛋白質発現、核酸プローブ、低分子化合物、miRNAや糖鎖の分野から構成されていた。



図1. 生体分子・細胞の計測に関する技術の俯瞰図

<開発企業・研究機関>
1993年以降の公開公報数のトップは、約1200件弱の富士フイルム(4901)で、日立製作所(6501)とパナソニック(6752)が続いた(図2)。海外勢では、スイスのロシュが9位にランクインした。一方、直近の約3年半では、ロシュが公開公報数トップとなった。続いて、近年、臨床検査機器とライフサイエンスの分野で業績を伸ばしているシスメックス(6869)が2位となった。3位には、米国の製薬会社であるジェネンテックがランクインした。1993年からの公報総数と直近3年半の公報総数(図3)を比較すると、ロシュやジェネンテック等の海外の企業、シスメックス、コニカミノルタ(4902)、日立ハイテクノロジーズ(8036)等、臨床検査分野で業績を拡大している企業からの特許出願が伸びていることが示された。また、大学では東京大学が5位にランクした。東京大学からは、多くの大学発ベンチャーが誕生しており、この分野でも、大学での研究成果を基に今後いくつかの企業が設立されるかもしれない。


図2. 出願人別の公開公報数(1993年1月1日-2017年4月30日)


図3.  出願人別の公開公報数(2014年1月1日-2017年4月30日)

<出願人の違いによる注力分野の違い>
武田薬品工業(4502)はバイオマーカー測定法、日立ハイテクノロジーズは測定デバイスに関連する特許の割合が高い(図4)。シスメックスは、バイオマーカー・測定法に関する出願の割合が日立ハイテクノロジーズと比べて高く、より試薬製品に力を入れていることが推察される。バイオマーカー・測定法分野の出願人は、製薬会社と大学、独立行政法人の研究機関が多い(図5)。日本の機器メーカーが、装置と試薬を組み合わせたシステムを販売するためには、アッセイ法に関して豊富な技術を有するこれらの研究組織といかにうまくコラボレーションするかというのが重要なポイントになるだろう。


図4. 各企業の公開公報のポジショニング

図5. バイオマーカー・測定法分野の出願人別公開公報数