Intellectual Ventures(インテレクチュアル・ベンチャーズ)の特許ポートフォリオ分析および自動車メーカーが注意すべき技術領域の把握

2017年6月15日

はじめに

2017年5月1日、日本の自動車業界に激震が走った。トヨタやホンダ等を含む日独の自動車関連メーカーに対して、米国企業の特許を侵害しているとして、米国際貿易委員会(ITC)が調査を開始した。訴訟を起こしたのはIntellectual Ventures(以下「IV」)である。IVはNPEs(Non-Practicing Entity:特許不実施主体)であり、一種のパテント・トロールだと捉えられている(NPEs=パテント・トロールではない)。
 

今回の事象を一度整理すると、日独の自動車メーカーに侵害されたと主張しているIVの特許は、米国のメーカー(Encap)が保有していたモーター関連の特許である。これらをIVが買収し、訴訟を起こしている状況である。これについて、「自動車産業はパテント・トロールの残されたラスト・リゾート」という論考もあり[1]、その通りであろう。しかし、それだけでは、今回、米国の自動車関連メーカーを訴えない理由が見当たらない。そこで、米国の政権交代というタイミングも踏まえると、また違った見方ができる。この一連の事象は、IVの新しいイメージ戦略という意味もあるのではないだろうか。トランプ新大統領はアメリカ・ファーストを宣言し、製造業の米国回帰や米国人の雇用創出を公約としている。またパテント・トロールに厳しかったアンチパテント派のオバマ前大統領と比較し、トランプ大統領はプロパテント派であるという見方が強い。このような背景情報を鑑みると、日本やドイツ等の海外メーカーから、米国のメーカーを守るというIVの新しい姿が浮かび上がってくる。このように、新しい米国政権に対して、これまでのパテント・トロールという悪いイメージではなく、米国製造業を守るという良いイメージを持ってもらうための戦略にも見える。この一件で、今後の米国における知財政策やIVの動向は、ますます目が離せなくなった。これは日本にとって、今後大きな影響を与える重大な変化の兆しではないだろうか。
 そこで、IVの動向を把握し、訴訟リスクについて予測することは重要になってくる。しかし、IVの実体を正確に掴み、動向調査することは非常に難しい。なぜならば、IV関連企業は数多く存在し、更にはその中で権利譲渡を繰り返しているからである。そこで本レポートでは、得られるIVや自動車メーカーの特許データを俯瞰することで、IVの特許ポートフォリオや自動車メーカーが注意すべき技術領域等を明らかにする。なお、これらの大量の特許データを分析する際は、VALUENEX株式会社が提供するDocRadarやTechRadar Visionを用いた。

概要

本章では、IVの特許ポートフォリオ全体像を、俯瞰解析によって明らかにしていく。そこで分析対象は、2017年6月3日現在、最新権利者が”Intellectual Ventures”、または”Searete”となっている米国登録特許とした。Seareteは[2]でも述べられている通り、IV関連企業である。また、その他にも、「Intellectual Ventures」という名が付かない関連企業が多く存在すると言われているが、全てを把握することは難しいため、本レポートでは前述の検索式とする。特許検索データベースはPatentSquareを利用しており、 4,473件ヒットした。ちなみに、PatentFreedomのwebサイト[3]には、25,000件~30,000件のUS特許をIVは保有していると推定されている。また、IVのwebサイト[4]には、彼らが保有する特許を検索できるページがある。2017年6月5日にUS特許を検索したところ、19,890件あるようである。

図1に、IVの権利取得件数の推移を示す(横軸:最新権利譲渡年、縦軸:件数)。2010年頃から急激に増加し始め、その後、増減を繰り返しながら推移している。ピークである2013年は、イーストマン・コダックが保有するデジタルイメージングに関する特許を、IVやRPXが5億2500万ドルで買収していることが背景にある。ただし、ここで1つ注意点がある。それは、最新権利譲渡年が本当に初めて他社からIVに権利が譲渡された年とは限らないことである。前述の通り、IVには「Intellectual Ventures Holding 88」や「Intellectual Ventures II」といった様々な企業が存在する。そもそも、「Intellectual Ventures」という名さえ付かない関連企業も存在する。IVはこれらの関連企業間で権利譲渡を繰り返しており、単純に“最新権利譲渡年=他社からIVに譲渡された年”とは限らない。しかしここでは、簡易化のために最新権利譲渡年を使って件数推移を見た。


図1. IVの権利取得件数推移

次に、収集したIVの特許について、VALUENEXのDocRadarを用いてクラスター解析を行うことで特許ポートフォリオを俯瞰した。その結果を図2に示す。本解析では特許全文の相互の類似性に基づき特許の可視化を行っている。そのため、類似性の高い特許は近くに、内容が異なるものは遠くに配置される。各プロットは、似た特許をひとまとめにしたクラスターを表しており、サイズはその中に含まれる特許数に比例している。また軸の方向には意味は持たせておらず、全体の配置が最適になるように計算している。
 主に特許が集積しているところに注目すると、俯瞰図の左側には、「デジタルイメージング」、「各種光学技術」等、その下には「集積回路」や「半導体技術」が存在する。一方、右側には、「電気通信」、「QoS制御」、「セキュリティ」、「超広帯域無線通信」、「メモリコントローラ、マイクロプロセッサ」等のICT分野が存在する。
 

ここで、NPEsの訴訟対象となる産業分野の割合を図3に示す。Computers and communicationsが75%と圧倒的に大部分を占め、次に、Electrical and electronicsが12%占めている。これは、俯瞰図で可視化したIVの特許ポートフォリオにもよく表れている。

<注釈>

本文中の引用元
[1] 週間ダイヤモンド: “トヨタ・ホンダもついに標的に、「特許トロールの恐怖」”, http://diamond.jp/articles/-/129691(2017.5.29)
[2] NGB: “企業特許分析~インテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)~”, http://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/462.html (2009.7.15)
[3] PatentFreedom: “Largest Patent Holdings”, http://wpressutexas.net/cs378h/images/c/c0/PatentFreedom_-_Largest_NPE_Patent_Holdings_PatentFreedom.pdf
[4] Intellectual Ventures: “Patent Finder”, http://patents.intven.com/finder